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The outside world is another world [文章創り]

観光客、学生、地元民が入り乱れるこの街の、路地を入った左側。
洋館風のカフェが一軒。
昭和の初期から続くカフェ。
店内は、いかにも「昭和初期の洋風」といった感じである。
調度品も、程よく輝く飴色にかわり。
指先で作られたまだら模様の天井。
ゆったりとした時の流れがある

「まるで東京にでもいるような名前の店ね」
はじめて来た時、彼女はそういった。
あれから3年の時が流れ、卒業が間近になった。
お互いの就職は決まった。
しかし、二人の今後がはっきりしない。
自分が何を望み
彼女が何を望んでいるのかよくわからない。
ただ、このまま何も言わないというのが嫌なのだ。
自分は東京、彼女はこの街で暮らして行く事になるだろう。
約束も何も無いままでは、
離れた暮らしは本当に二人を離してしまうだろう。
決まらないまま、わからないまま思い出のこのカフェに来てみた。
出会った頃の事を思い出してみたかったから。
彼女は昔と変わらず、定番のウインナーコーヒーを飲んでいる。
クラシック音楽は第四楽章を終わろうとしていた。
もうすぐ、店を出る頃か・・・。
ワイン色の席を立ち、秋の夕暮れの街へでる。


店を出ると、7月の熱帯夜の風が流れた。
店を出れば、そこは40年後の世界。
「ここは、まったく変わらないわね」
妻はそう言った。
「この店を出たあとだったわね。一日中ずっと、何か言いたそうな顔でいたから別れ話をされるかと思っていたのよ」
彼女と結婚して39年たった。

「お互い老けたな」
店の中では、彼女は20代に見えたんだよ。
魔法でもかかったかのように。
昔と変わらぬこの店の「時」が魅せた幻か。
外に出た途端に、時間はいっきに通り過ぎた。
それでも、
今も昔もこうしていられる事が良い。
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