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去年書いたものの中で一番好きな文章。 [文章創り]

笑顔
 結局、自分はあの人に会う事も謝る事も出来なかった。最後に会った時のままの苦しそうなあの人の表情が記憶に焼きついている。あの人の気持ちは分かっていたのに、あの人の性格は自分がいちばん分かっているのに。あの人は、自分を許し信じていると分かっていた。いつも笑ってくれていた。自分は、次に会う時のあの人の笑顔を想像していた。しかし、「あの人は許してくれるだろう」と思う事が、驕っていてずるい人間に感じて許せなかった。
 この場所にあの人はいないと知っている。最後に見たのは、水道も凍る寒い冬。今は立っているだけで汗が噴出してくるほど暑い夏。自分の足は、無意識にいつもあの人が座っていた場所へ向かった。玄関を入り、台所を過ぎ、居間を越えて庭と畑に面した縁側へ。いつもここに座って居た。そして、この景色を見ていた。自分は、顔をあげて庭を、そして前方の野菜畑を見た。


これは・・・・・・
・・・・・・あの人の笑顔だ。
 
 小学校の校庭半分ほどの畑全体に向日葵が咲いていた。その花は、太陽に向かって大輪の花を開く。その全ての花が自分を見ていた。
言葉は出なかった。あの人は本当に自分を愛し、許してくれていた。そして、二度と会えないことも気づいていたのかもしれない。花は種から育ち、自分が来るのを待っていてくれた。あの人の代わりに。
 いたずらっこのような笑顔で、
「許しているよ。待っていたよ。ただし、夏だけね」。
 そう言われた気がした。そして、こんなに大量の種を蒔いたあの人に泣き笑いで呆れた。



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